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2006年6月28日 (水)

核問題1(その3)

再処理問題

  使用済み核燃料棒を破砕し化学的な処理をして、未だ分裂していないU235と生成たプルトニウムを回収し、核分裂生成物を分離する工程を再処理といいます。強い放射能のPuや放射能を持つ分裂生成物を取り扱うので、完全に自動化されています。第一の問題は燃料棒内に閉じ込められていた放射能物質は燃料棒が寸断破砕されるので外部に放出されます。特に気体状の放射性分裂は工場内から大気中に洩れないように密閉しなければなりません。しかし外界に洩れるのを防ぐフィルターが有効に働かない気体があります。                                   

  希ガスと言われるクリプトン85やトリチュウムH3などです。クリプトンは全部大気中に放出されます。例えば現在は稼動していませんが、核兵器用の米国のBarn-well再処理工場は年間14,000,000 Ci のクリプトンを大気中に放出していました。Ci という単位はラジウム1グラムの放射能で、1秒間に370億個の放射線(ラジウムではアルファ線)を出す量です。いまベクレル(Bq)単位が使われますが370億Bqにあたります.まさに想像を絶する量の放射能です。アメリカの子どもの乳歯を長期間分析した記録によると、年々急増していることが判っています。また北半球の空気試料中のクリプトン85は1955年から急増し1970年には約30倍になっています。世界規模の放射能汚染を引き起こしたのです。ちなみに原発も大気中へ希ガスを出しますが、再処理工場の出す量はその約5千倍にもなります。

  ついで問題なのは工程は極めて複雑で、使用されているパイプの長さが数百キロメートルにもなるといいます。危険な化学工場です。一度故障が起きれば、人が立ち入れないために修復も困難です。それより最も懸念されるのは、分離されたプルトニウムは常に臨界量以下になるようにしなければなりません。もし装置の故障で集積するようなことになれば、核爆発さえ起こりかねません。工場が火災や爆発事故を起こせば、最強の放射能を持つプルトニウムや放射性物質が広範囲に撒き散らされ、人は住めなくなるでしょう。その被害は計り知れないものがあります。

  商業用原子力発電では世界各国は安全性からも、さらに経済性からも問題を抱えた再処理をしない直接処分法を採用しているのです。ではなぜ日本は核兵器用になるプルトニウムを生産する再処理処分法を固執しているのでしょうか。1969年外務省「日本の外交政策の前提条件」の文書中に、つぎの文言があります。”わが国は、いかなる外国の圧力があろうとも、核兵器を開発する財政的、技術的手段はこれを保持し、必要とあれば進展させるよう勧告している。”

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2006年6月26日 (月)

核問題1(その2)

核濃縮と再処理

 天然ウランはウラン238(U238)が99.276%をしめ、低速の中性子を吸収して核分裂を起こすウラン235(U235)はわずか0.7196%しか含まれて居ません。U235は核分裂の際2~3個の中性子を放出し、これがU235に吸収されると核分裂させ、つぎつぎにこの過程が進むことを連鎖反応といいますが、U238はこの中性子を吸収しても核分裂を起こしません。一個の核分裂によって生じた中性子がつぎのU235に核分裂を平均して何個引き起こすか、その個数を増倍率といいます。原子爆弾は同位元素分離という困難な技術によってU235を80%以上に濃縮して、増倍率を2近くにまでしました。仮に2の増倍率とすると、連鎖反応が80回繰り返されたとき約1キログラムが分裂します。これに要する時間は約1000万分の1秒です。原子爆弾の凄まじい破壊力はその爆発エネルギーの巨大さにあるのはもちろんですが、放出時間がこのように短時間であることも一因と言えるのではないでしょうか。

原子力発電ではU235の濃縮度を約3%位にし、増倍率を1程度にして連鎖反応を途切れないように、しかも分裂数が増えないように中性子を吸収する制御棒を出し入れして運転しています。一個の分裂で発生した中性子がつぎの核分裂を起こすまでの時間はおよそ10億分の1秒ですから、制御は不可能ですが、冷却をかねた水によって中性子を減速し、さらに分裂の際遅れて中性子を放出するものがあるために制御ができるのです。

ともあれ軽水炉と呼ばれる原子炉の核燃料はU235を濃縮することが必要になるのです。米国の原爆開発(広島型ウラン爆弾)にあたって技術上克服しなければならなかった最大の難問の一つは天然ウランからU235を80%以上にする同位元素分離でありました。いまでは超遠心分離法としてよく知られていますが、その技術上多くの機密の問題はパキスタンのカーン博士の闇取引のように、未だに様々な技術上の問題を秘めています。

ついでプルトニウム問題です。これは直接処分法を取れば生じないことです。例えば玄海4号(加圧水型軽水炉PWR)の炉心には外径9.5mm、全長3.9メートルの細長いジルカロイ燃料棒が3mmの間隔で設置された中を冷却水が流れています。ウラン235の濃縮度、が領域により2.03.54.1%と異なりますが、この低濃縮ウランは融点が高く安定性がよいセラミック状に加工した酸化ウランのペレットにして燃料棒につめられています。総計核燃料棒55、777本が17×17本の集合体、193個からなっています。 

核分裂によって生じた中性子は燃料棒の間にある冷却水によって減速されつぎのU235を分裂させ連鎖反応が持続します。同時に発生した残りの中性子は一部はウラン238に吸収され、一部は炉心内の色々な装置に吸収されます。

中性子を吸収したU238はネプチニウムNp239になりついでプルトニウム239となります。つまり原子力発電には必然的にプルトニウムの発生を伴うことになります。一定時間燃焼した燃料棒は取り出して新しい燃料棒に取り替えますが、この使用済み核燃料棒は内部に生じたプルトニウム、やU235が分裂して出来た多種類の生成物、まだ分裂していないU235、U238を閉じ込めています。まだ分裂生成物など核反応が継続して発熱や放射線を出すので水槽に貯蔵しておかねばなりません。

世界の体勢はその後、そのまま地下深い安定な貯蔵所に管理保管する直接処分法をとっています。しかし日本は再処理してプルトニウムを利用する政策を執ってきました。このため様々の問題が生じることになります。   

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核問題1(その1)

日本の原子力政策―核燃料サイクル方策の問題点

 日本の原子力政策は原発の使用済み核燃料をそのまま安全に保管する直接処分法でなく、燃料棒を破砕し化学的に処理して、残っているウランと原発運転中に生成したプルトニウム(Pu)を取り出して利用する核燃料リサイクル方策を当初から一貫して追及してきました。しかしこれには幾つもの問題があります。

まずこの政策の前提となる高速増殖炉(FBR)です。プルトニウム(Pu)を燃料とする高速増殖炉は、消費したPuより多くのPuが生成されます。ウランを海外に依存する日本にとってエネルギー資源確保の要請に応えるものである、というのが理由です。増殖炉は夢の原子炉として多くの国が開発を競いました。しかし技術的に極めて困難で、さらに事故によって、強い放射能で化学的にもきわめて有毒なPuが飛散すればその被害は想像を絶するものになります。事実米国はフェルミ炉が66年事故を起こして以来取りやめました。最も開発が進んだフランスも実証炉の段階まで行きながら中止しています。それにも拘らず日本はあくまで高速増殖炉の開発に突き進んできました。しかし一部の原子力専門家が予想したように、原型炉「もんじゅ」は95年ナトリウム漏れの事故を起こし、再開の目途すら立っていません。

もともと高速増殖炉で消費するプルトニウムは「もんじゅ」で年間約500キログラム程度です。もうすでに既存の原子力発電所の使用済み核燃料の再処理で43トン(海外委託を含む)という長崎型原爆約5000発分ものプルトニウム量を所有しているのです。「もんじゅ」並みの増殖炉数基が二、三十年かかっても使い切れない量です。プルトニウムの所有は国際的にも認められない問題であることは言うまでもありません。  

過剰な量の辻褄あわせにプルサーマルという原発で使用する苦肉の策をこうじているのです。プルサーマル問題は後に改めて書くことにします。

 不可解なのは、さらに年間8トンのプルトニウムを取り出す六カ所村再処理工場を建設したことです。イランや北朝鮮では大騒ぎになっているウラン濃縮や再処理が、国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れているとはいえ、日本のみ許容されているのは国際的に見て特異な状態にあると言えるでしょう。加えて過剰なプルトニウムを所有することは、核不拡散条約の崩壊が懸念されている現在、国際的にも疑惑を招く重要な問題であります。この特異な状態については日米間の驚くべき協定の事実があります。これについても後に書きます。

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