« 2006年6月 | トップページ | 2006年8月 »

2006年7月26日 (水)

核問題1(その9)

グリーンピース・レポート「不法なプルトニウム同盟」の紹介(5)

  この報告書は、これまでほとんど公表されていないアメリカと日本の間のプルトニウム同盟に焦点を当てる。アメリカの情報公開制度から得られた書類によれば、[原子力平和利用技術の移転の名において危険な核技術を積極的にばら撒こうとしている政治的に不安定な地域]北東アジアの地域においてアメリカは核軍事計画を縮小させるよりも、先端プルトニウム技術を欲しがる日本を積極的に支援してきたことが分った。アメリカの納税者に数十億ドルの負担をさせて開発されたこの民事―

軍事両用技術は、新しい日本のプルトニウム再処理施設に組み込まれようとしている。アメリカは北朝鮮のプルトニウム計画を後退させると同時に、自国の核兵器計画を起源とする技術を日本へ送り出してきたのである。

  グリーンピースが行った法律的な分析から暴きだされた最も注目すべき事実は、アメリカの不拡散の法令の大黒柱である米核不拡散法(NNPA)が、日本への技術移転によって侵犯されたことである。同様に、日米原子力平和協力協定でも、機微な核技術は移転が許されていない。

  この5年以内にアメリカは日本に、アメリカ内では最高機密に属する軍事施設で数十年にわたり研究開発されてきた成果を集約させた技術を移転してきた。日本の計画は年とともに発展を遂げ、これまで開発されてきた中で最も新しい兵器用プルトニウム製造システムを入手できるまでになった。

  日本の新しいプルトニウム抽出工場は、国際原子力機関(IAEA)の保障措置のもとで運転されることになっているが、この工場での保障措置の実効性は小さく、相当量のプルトニウムが軍事転用されることが簡単に起こり得る。

  この報告書に詳しく示されている中心的な論点は、アメリカの技術と日本のプルトニウムが最先端の核兵器技術計画に、どのように直接的に応用されるのかということである。そのことは、日本が核兵器ドクトリンの中でも最も不安定化を促す政策を選択しようとしている可能性を示唆している。

  数回にわたってグリーンピース・レポートを紹介してきました。その後東海村のリサイクル機器試験施設は完成しました。しかし高速増殖炉「もんじゅ」は1995年12月、ナトリウム漏洩火災事故によって再開の目途さえたっていません。

しかし日本は国、原子力委員会、電力会社ともども強引に既定の核燃料サイクル路線を継続する原子力政策大綱を決定しました(2005年14日)。40トン近いプルトニウムを持つことになります。レポートの指摘した問題は決して過去のことではないのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年7月22日 (土)

核問題1(その8)

グリーンピース・レポート「不法なプルトニウム同盟」の紹介(4)

  協定文と付帯文書を詳しく調べた結果、アメリカから日本へ少なくとも2回は実際に機器が輸出されたという事がわかった。とくに、燃料解体装置と遠隔抜き取り装置の2つは東海村で試験され、リサイクル機器試験施設に装着される予定である。

  『通常の軽水炉の使用済み核燃料を再処理して取り出すプルトニウムはPu239のほかにPu240を多く含みます。Pu240は自発核分裂をするため早期爆発の可能性が高く、軍事目的には不利です。原子炉級プルトニウムといわれます。それでも核兵器に使用できないわけではありません。アメリカが核兵器で使用していたものは、Pu240が約6%の純度で兵器級プルトニウムと呼ばれます。ところが東海村のリサイクル機器試験施設はそれを上回る、Pu240が2~3%の超高純度プルトニウムをもたらします。』

  日本の再処理プルトニウム(2010年までに110トンを越える)は、すべて兵器利用可能であるということは繰り返し指摘しなければならないけれども、リサイクル機器試験施設は明らかに原子炉級プルトニウムよりも軍事的に有利なのである。10年間の運転の後には「もんじゅ」から約700kgの超高純度プルトニウムを取得するだろう。これは爆発力が少なくとも20キロトン相当の核弾頭230個以上を保有するに十分な量を持つことになる。このような取得を必要とする商業的正当化の理由としては“将来の高速増殖炉のために好ましい燃料は兵器級プルトニウムである。とでも言うのであろうか。軍事的正当化は“これは素晴らしいプルトニウムであり、日本の威力と作動性の両面から、最も信頼性の高い核兵器を持つというオプションを与える”ということである。

  日本の非核三原則については繰り返し述べられてきたが、法律的根拠はどこにもないし、日本政府自身「核兵器保有は日本の憲法に抵触するものではない」と明らかにしている。

  リサイクル機器試験施設を擁護する議論の一つは、プルトニウムの軍事利用への拡散を不可能にする方法とされている準リアルタイム計量(注)を含む、最先端の完全な国際原子力機関の保障措置の下で施設を運転するから大丈夫というものであろう。

(注)『1978年以来、東海村再処理プラントで自主的に行われてきました。そこで集められたデータは、動燃、日本原子力研究所、国際原子力機関(IAEA)によって評価されます。』 

しかし、1993年武藤外務大臣が示唆したように、日本が公式に核拡散防止条約(NPT)から脱退し、蓄積したプルトニウムを軍事目的にしようすることもあり得る。

   

   ワシントンにある核管理研究所から指摘されて、動燃の担当官は東海村の高速増殖炉プルトニウム燃料製造工場内で、5年間にわたって70kgの酸化プルトニウムが蓄積された事をしぶしぶながら認めた。国際原子力機関はそのプルトニウムが「行方不明物質(MUF)」であることを否定し、「残留物」であって依然として保障措置の下にあるとした。残留物は工場の内部の露出面に集積したプルトニウムの塵のあつまりであろうという。

   驚くべき事に、国際原子力機関は動燃がプルトニウムを除去せずに工場の中に残す方を選んだという声明を発表した。残留物質という名の行方不明プルトニウムを、低濃度放射性廃棄物用の容器に隠し、その容器を不適切な査察のおかげで工場から運び出すというやり方で、日本がプルトニウムを転用することができるという指摘もされている。

   このような東海村に関する顛末は、非核保有国に対する保障措置の適用が差別的に行われている事を明らかに物語っている。軍事転用可能なプルトニウムを70kg 以上も自国の機関において蓄積する事を許可するような宣言を、国際原子力機関が行うなどという事は到底想像できない。例えば北朝鮮が大量の軍事転用可能なプルトニウムをヨンビョンにある再処理施設に残す事を決定したと宣言したとしたら、当然それを受け入れないだろう。ところが日本の場合にはそれを問題にされていない。 

(次回に続く)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年7月16日 (日)

核問題1(その7)

グリーンピース・レポート「不法なプルトニウム同盟」の紹介(3)

  いまではNPT崩壊の危機にあっても米国は関心を示さなくなっていますが、グリーンピース・レポ-トが発表された1994年は、核不拡散条約(NPT)の再検討会議1995年を前にして、いまと違ってアメリカは非核保有国の反対に逆らってNPT無期限延期を強く主張していました。また核拡散への懸念は国際社会の共通のものでしたから、このレポートは一際驚きをもって受け取られたのです。レポートの記述にもどります。

   前回のリサイクル機器試験施設(RETF)での協力についての協定(1987年1月)に先立ち、1985年から核燃料、核物質の開発に関する協定の特別覚書が米国と日本の間で調印された。これは米国が「もんじゅ」の炉心とブランケットの燃料集合体の設計で重要な助力をする基本になった。3つの集合体(2つは核燃料集合体、1つはブランケット集合体)についての、ハンフォード高速中性子束試験施設(FFTF)での照射実験を内容とする。

   

   リサイクル機器試験施設協定(以下、協定と呼ぶ)での共同研究の中心はオークリッジにあったが、日本と取り交わされた協定の範囲には、米軍と民間の核プログラムがある、ロスアラモス国立研究所、アルゴンヌ国立研究所、サバンナ・リバー施設、ハンフォードが含まれていた。オークリッジ国立研究所はマンハッタン計画および冷戦時代全般にわたって、米国の核開発の主力センターの1つであった。

   5年間の研究開発計画のために、エネルギー省と動燃から500万ドルの研究予算と研究員がオークリッジ国立研究所に投入され、後期の段階でオークリッジ国立研究所は日本における施設の建設、および運転を支援することになっていた。

   その計画の焦点は高速増殖炉再処理技術、特に核分裂生成物を分離して使用可能なウランとプルトニウムを高速増殖炉使用済み燃料と高速増殖炉ブランケットから回収する技術を開発し、発展させることであった。

 

   協定のおかげで、エネルギー省は米国の納税者が30年以上、約16億ドル財政負担をしてきた高速増殖炉と再処理計画を一定期間保持することができた。また共同研究を推進した前の責任者、オークリッジ国立研究所の核燃料リサイクル部長ウィリアム・バーチ(William Burcu)は「二国間協定は互いに有益であるだろう。日本は米国との協力によって再処理技術の開発期間をスピードアップすることが可能であろうし、恐らくいくらかの予算を節約することにもなろう。米国にとっては我々研究者をゲームに参加させ続ける方法となる。」

    米エネルギー省の担当官は1994年8月末グリーンピースに対して次のことを確認した。少なくともリサイクル機器試験施設に対して鍵となる再処理技術の1つが、米エネルギー省のサウスカロライナ州サバンナ・リバー核兵器工場で開発され、テストされた。この工場の主たる役割は、米国の核兵器に必要なプルトニウムとリチュウムを提供することで、プルトニウムと高濃度のウランの分離を行う2つの再処理施設があった。--その一つの施設で遠心分離接触器は開発されホットテストが行われた。この接触器は米エネルギー省のアルゴンヌ研究所でさらにテストされ、それから日本のリサイクル機器試験施設で使われるために動燃に供与された。

  遠心分離接触器はリサイクル機器試験施設の稼動に不可欠で、米国核兵器計画と日本の”いわゆる”民生用プルトニウム利用計画が結合した明らかな例である。        (次回に続く)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年7月 9日 (日)

核問題1(その6)

グリーンピース・レポート「不法なプルトニウム同盟」の紹介(2)

  原子炉で人工的に作られるプルトニウムは、核兵器用に転用可能な爆発物質であり、従って世界で最も危険な物質の一つである。全ての原子炉はプルトニウム生産の基本的装置であるが、その内の一つ、高速増殖炉(FBR)は(1)商業炉からの使用済み核燃料の再処理と化学分離によるプルトニウムが必要であることと、(2)高品位プルトニウムを作る能力があるという理由で、特に核拡散のリスクが大きい。

  1990年代までに、何十基もの高速増殖炉(FBR)を建設しようとした世界の核産業の計画は、技術的失敗と経費のかかりすぎのため、さらにはそれが生じさせる核拡散の脅威と相まって断念、中止されてきた。

  アメリカのエネルギー省の商業用増殖炉計画<クリンチ・リバー増殖炉>も建設が始まる前の1983年にアメリカ議会によって止められた。オークリッジ国立研究所とハンフォード工学開発研究所がクリンチ・リバー増殖炉からの核燃料を再処理する目的で、共同で研究開発が進められ、ハンフォードの核燃料・材料評価施設に作られることになっていた増殖炉再処理工学試験(BRET)は中止された。

  しかしエネルギー省内部と研究所での契約研究者の双方は基礎知識を維持し、技術を開発し続ける決心をした。

  ここに世界でただ一国だけが、失敗した増殖炉の夢に固執してすがりつき、その開発に莫大な資金を注いで、“プルトニウム経済”を追求し続けている。その国が日本である。

オークリッジ国立研究所の公文書によると、「日本の動燃(現、核燃料サイクル開発機構)との協力によって、米国は専門技術の核心部分を維持することができる。もし、研究所と米エネルギー省が、より高度な核燃料サイクル技術の将来方向を研究する実行可能で長期間を要する作業にとりくむならば、技術的専門家たちは核再処理分野の開発にこのまま進んで行くことができる。」

“幅広い協力を望む”と奨励したのは米エネルギー省であった。

1987年1月に「リサイクル機器試験施設(RETF)]の開発の協力を取り決めた日米協定が、米国側はエネルギー省の代理ジェームスWボーガン(James W.Vaughan)と日本の動燃事業団・石渡鷹雄によって調印された。8ページ、14条と、実施される事業の技術的な範囲と時間的な枠組みをきめた6ページの「技術プラン協定への補遺」からなる。日本が公にすることを避けたいとしたため、この協定は広く公表はされなかった。

一見何の問題もないような名称の「リサイクル機器試験施設(RETF)」は、実は動燃が建設したもう一つのプルトニウム再処理工場であり、東海村に建設されている。

| | コメント (0)

2006年7月 5日 (水)

核問題1(その5)

グリーンピース・レポート「不法なプルトニウム同盟」の紹介(1)

  1994年9月に発表されたグリーンピース・レポート「不法なプルトニウム同盟」は米国、日本政府に大きな衝撃を与えました。その内容を紹介します。ここに指摘されたことは現在もまだ日本の原子力政策の底流として存在すると考えるからです。

  A4版、60ページおよび付録7ページからなるこの小冊子の序言はストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の前所長、Dr.Frank Barnbyが書いています。長くなりますが引用します。「核の拡散、とくにプルトニウムと兵器転用可能技術の拡散は国際体制にとって最重要問題である。

  この報告書は二つの問題に焦点を当てている。第一は、プルトニウム強国として出現してきた日本の脅威。日本は、最先端で高精度の核兵器を作るために理想的な、高品位のプルトニウムが得られる新しい再処理施設の建設を、間もなく始めるであろう。」

  「第二には、日本の新しいプルトニウム抽出工場のアメリカ合衆国から不法にあたえられた“機微な核技術”による運転。アメリカから日本へ提供された技術は、サバンナ・リバー核施設とオークリッジ国立研究所を含む核兵器研究所で開発され、合衆国の核兵器のためのプルトニウムの製造に用いられたものである。

  このような技術は、合衆国の核不拡散法(NNPA1978年)でも日米原子力平和協力協定(1987年)でも、輸出と移転が禁じられている。核不拡散法はアメリカ合衆国の核不拡散政策の中心的基礎をなしている法律である。」  

極めて重大な指摘に対して米エネルギー省は9月9日、技術移転の違法性について60日以内に調査し公表すること、日本とのプルトニウム再処理と高速増殖炉開発の技術協力を段階的に縮小することを明らかにしました。このグリーンピースの指摘の重大性とアメリカ当局の素早い対応は、世界を驚かせました。

これに慌てふためいた日本政府は直ちに使節を送ってアメリカ政府との協議にはいりました。(以上は藤田祐幸氏の所論による)

その後、アメリカエネルギー省は違法性を明確にせず、日本は計画を速め東海村再処理工場の問題の施設はリサイクル機器試験施設(RETF)の名のもとに完成した。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年7月 1日 (土)

核問題1(その4)

ウラン濃縮・再処理が日本の認められている問題

  イランの核開発問題について、米国は空爆も辞さない強硬な対応をみせています。イランは核不拡散条約(NPT)に加盟し、核開発がひそかに行われていないかどうか監視する国連組織IAEA(国際原子力機関)の査察も受け入れていて、「イランが核兵器を開発しているという証拠は見つかっていない」という主旨の報告書をIAEAは何回か発表しています。

  イランが強硬に主張するように、非核保有国は原子力平和利用のためのウラン濃縮(ウラン235濃度5%以下)は権利として認められています。もっともイランはパキスタンの「カーン研究所」から秘密裏に中古の遠心分離器を買った経緯があります。

  イラン革命以降険悪な間柄にある米国は、現ブッシュ政権になるとイランを「悪の枢軸」の一つに指定し、政府転覆の対象にします。 アメリカ国務省は「イランは、IAEAに査察を許していいないパーチン(Parchin)軍事基地で、こっそり核兵器を開発しているに違いない」と言います。しかしブッシュ政権がイラク侵攻の口実に、大量破壊兵器を隠しているという偽りの情報を根拠にしたことは周知のことであり、米国の言い分は信頼されていません。イラン側はIAEAにパーチン基地の査察を許可し、その結果核関連の設備が何もないことが確認されています。(田中宇:国際ニュース解説2006年2月7日による)

  一方、日本のみが非核保有国のなかで、唯一「単独」で核濃縮や再処理によるプルトニウム生産が容認されているのはなぜでしょうか。 

  米国の身勝手なダブルスタンダード(というよりマルチスタンダード)の結果、友好   国日本にプルトニウム生産を認めたと安易に考えてよいでしょうか。もちろんそのこと事態、問題ですが、事はそんな生易しいものではなかったのです。1994年9月、グリーンピース・レポート「不法なプルトニウム同盟」(The Unlawful PlutoniumAlliance)が発表されました。それによれば日本と米国のプルトニウム生産と再処理についての共同研究は、1950年代の平和のための原子力戦略にはじまり、1988年から効力を発生した新しい日米原子力平和協定のもとで、プルトニウム燃料サイクルの開発における政府間の協力は広範囲にわたっており、結果として公衆の目が届かない状態になっているというのです。この問題は次回に書くことにします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2006年6月 | トップページ | 2006年8月 »