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2006年9月22日 (金)

北朝鮮のミサイル(2)

 北朝鮮のミサイルの技術はどのようなものか、米国の「憂慮する科学者同盟」のミサイル問題の専門家の物理学者デイビッド・ライトが米国の専門家28人からなる「米国の朝鮮政策に関するタスク・フォース」に提出した論文から一部引用すると、スカッドミサイルは500kgの搭載物を載せた場合、射程500-600km、十分実験が行われていて、他の国々に多数売却されている。配備している射程の最も長いミサイルはノドンで、搭載物の重量が約700kgの場合、1300km で日本全土を標的にすることができる。スカッドより大きくて強力なエンジンを使っている。外国の援助を得て開発されたと考えられる。この2種のミサイルが日本にとって重要ですが、米国にとっては長距離ミサイルのテポドンが問題です。日本にとっては全く脅威では無いにも拘らず問題にされるのはミサイル防衛システムに財政面で日本を巻き込むためです。青森県車力に知らぬ間にXバンドレーダーが設置され(ホノルル目標に備える)、さらに南部にも設置する計画がある(グアム目標に備える)といわれます。

 前述のデイビッド・ライトは米国の立場で書いているのですが、テポドンの性能については当面脅威ではないとしています。1998年の最初の実験では第三段階で失敗したがこの段階で固体燃料を使ったことを注目しています。しかしさらに実験をしなければ実用レベルにあるとみなすことはできないとしています。またテポドン2は未だ一度も飛翔実験がなされていないが(論文の書かれた時点)、これまで製造・実験してきたテポドン1より相当大きく、最大直径は2倍近く、体積は3倍となり、推進力も大きくなる。その結果、ミサイルにかかる応力はこれまでのミサイルよりも厳しいものになる。また第一段階部分で4つのエンジンを束ねて使う方法を初めてとると推測される。これはミサイルの複雑さをますことになる。 テポドン2が持つことになる射程を得るには第三段階が必要だが、これまで第三段階の打ち上げには成功していない。(デイビッド・ライト)

今回の3発目のテポドン2と推測される発射実験は発射直後の30-35秒後に、先端の覆いや他の物体が剥離し落下した。それを契機に異常が連鎖し、45-52秒後の間にミサイルからのテレメーター信号が途絶えた。これは第一段ロケットの動作期間であり、最高高度は10.4km ,水平到達距離は長く見積もっても8.4km程度で防衛庁の発表や報道は誤りで落下地点は陸地すれすれの海岸の可能性が高いと言われます。ミサイルは真東に40.5度の人工衛星にふさわしい発射角度だったことから、内陸地域に落下したと推定されると米国は分析しています。(核兵器・核実験モニター)

  ライトの論文は北朝鮮は長距離ミサイルの大気圏再突入熱シールドの飛翔実験を行っていない。弾頭の運搬用ミサイルにはこの実験が欠かせない。これらの不確かさのため、テポドン2の初期実験が成功すると推定する根拠はない。たとえ成功したとしても、ミサイルの信頼性を推定するには、何回かの(2回以下ということはない)実験が必要である。かりに1個か2個の核兵器を開発したとしても、そのような

貴重で数の限られたものを、信頼性の定かでないミサイルに搭載するようなことはせず、他の運搬手段用にとっておくだろう。と論じています。今回の実験の失敗は彼の予想を裏付けるものになりました。

  前回のテポドン1もそうでしたが、今回のテポドン2も北朝鮮は人工衛星を打ち上げる目的だと称しています。米国の優れた警戒・探知能力から、その軌道は熟知している筈ですから多分偽りないことと想います。だとすると日本が最近打ち上げた偵察衛星はマスコミが成功を賞賛し、北朝鮮の衛星打ち上げは非難するのは公正さに欠けると考えるのは間違っているのでしょうか。

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2006年9月21日 (木)

北朝鮮のミサイル(1)

 7月5日北朝鮮は午前3時32分から午前8時17分まで6発、やや間を置いて午後5時22分に7発目のミサイル発射実験をしました。発射順に番号で呼ぶことにします。多くの情報からの推測が「核兵器・核実験モニター」に整理されているのでそれを引用すると

順番  発射時間 飛行時間  飛行距離      種類

1  午前3:32   5分   500-510km    スカッドC

   午前4:04        600-620km     ノドン

3   午前4:59   2分   0.5-8.4km   テポドン2、テポドン3

4   午前7:13   5分  420-550km    スカッドC

5   午前7:31   5分  420-500km    スカッドC

6   午前8:17   7分  420-600km    新型X、スカッドER

7   午後5:22   7分  420-600km    新型X、スカッドER

3発目のテポドン型はムスダンリから発射されたが、ほかはすべてアンビョン(安辺)のキッテリョンから発射されています。落下地点(着弾というのは弾頭に爆弾を搭載していない以上故意に脅威をあおるもので使うべきでない。)は日本海の北端で、また飛行時間、飛行距離が短いのは高角度に発射して日本へのインパクトを避けたものと推測され、そのことは落下地点の船舶に警報が出されていた(この事実はなぜか報道されなかった。)事とあわせて考慮すべきではないか。もちろん政治的意図があることは明らかですが、同時に技術的な確認実験とミサイル輸出(イランなど)とのねらいがあったと想われます。少なくとも攻撃的意図を持った発射でなかったことは明白です。米国をはじめとして日本、韓国が発射間近だと待ち構えているのに攻撃目的のミサイルを発射する筈がありません。にもかかわらず安倍内閣官房長官や額賀防衛庁長官が敵基地攻撃論まで言い出し、マスコミや世論まで同調することの危険性にむしろ極めて脅威を感じます。

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2006年9月10日 (日)

イラン核開発問題

イラン核開発問題

 国際原子力機関報告書について

 イランのウラン濃縮は平和目的だけなく核兵器開発の意図をもつものと不信感をいだく欧米は、ウラン濃縮を止めさせるため、8月22日これを停止すれば①米国がイランとの直接交渉に参加する。②他国との共同事業による軽水炉建設など「包括的見返り案」を提示しました。しかしイランはこれを拒否しました。

  イランはOPECで第2位の産油国であり、レバノン情勢はヒズボラの予想外の武力抵抗でイスラエルが劣勢に立たされるなどもあって、アフマディネジャド大統領は危ない賭けに出ていると懸念する向きもあります。

  このような状況の中、イランが拒否して1週間も経たない8月31日に国際原子力機関(IAEA)の事務局長の「核不拡散条約(NPT)保障に対するイランイスラム共和国の協調」という報告書が公式発表されました。これによるとイランはかなり率直にIAEAに対して対応しています。たとえばウラン濃縮の遠心分離機164個の連結装置(cascade)を2006年6月23日から7月8日にかけて稼動し、ウラン235濃縮度5%(原子炉核燃料3%前後)を達成したこと、200年8月25日には約26トンのフッ化ウランを生産したことなどを明らかにしています。しかし一方で濃縮は今後も継続することを言明し、これはあくまで平和利用のためであり、NPT条約の規制にも違反していないことを強調しています。またIAEAの査察にも応じるとしています。またプルトニウムの汚染問題なども、過去の経緯を知らないと分りにくいので省略しますが、プルトニウムを生産しているという証拠はないと報告書はみとめています。

  この原子力機関の公式の報告書は結論として、イランが核兵器開発を意図しているということはいまの段階で証明する証拠はないが、今後も監視は続けるべきだとしています。

  この時期報告書が出された意義は大きいとおもいますが、ブッシュ政権が大量破壊兵器はないという、情報を無視して都合のよい情報のみを理由にイラク戦争に踏み切ったことを考えると、ブッシュ政権の対応には警戒が必要です。

  この報告書についての報道はまだ見ていませんが、プルトニウムに比べて核兵器技術としては容易なウラン原爆の原料、濃縮ウラン製造を意図していれば脅威を感じるという評論家もいます。しかし164機のカスケードで原爆用の60%濃縮度ウラン1個分を生産するのには10年以上かかるでしょう。数千機からなる超遠心機のカスケードが設置されれば脅威になりますが、現在は核兵器開発の脅威はないと言ってよいと想いますが、今後のイランの動向には警戒は欠かせないでしょう。 

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