ポロニウム毒殺事件の謎
11月23日、元ロシア連邦保安庁(FSB)中佐アレクサンドル・リトビネンコ氏が毒を盛られた疑いでロンドン市内の病院で死亡しました。毒物はポロニウムと言う普通には聞きなれない放射性物質といわれています。FSBは旧ソ連の秘密警察として恐れられていたKGBの後継機関で事件を巡っていろいろな報道がなされています。
しかしわたしの知る限りではポロニウムが核爆弾の爆発の連鎖反応を惹き起こす重要な物質であることについての報道は見ないので書くことにしました。
ポロニウム210は1898年、キュリー夫妻によってラジウムと共に発見されたアルフア線を出す放射性元素で、半減期138,4日です。砲弾型のウラン爆弾でも、爆縮型プルトニウム爆弾でも臨界に達して連鎖反応によって爆発するのです。前者はウランを臨界質量以下に2分割して砲弾型の筒の両端におかれています。爆発時には一端の置かれたウランを爆薬で他方のウランに撃ち込んで、臨界質量を越える方式です。後者は空洞を持った球状のプルトニウムをその周りに配置された複雑な構造の爆薬で圧縮して臨界にもってゆきます。
連鎖反応は百万分の一秒という短時間で広がります。分裂が始ってその一部の爆発によって分裂しないままウランやプルトニウムが飛散するのをどのようにして防ぐかは難しい技術が要求されます。プルトニウム爆弾ではプルトニウムの周囲には飛び散るのを抑えるためのタンパーとして重いウラン238が覆うています。またプルトニウム爆弾の場合プルトニウム240という自発核分裂する同位元素が含まれるため早期爆発という一層難しい問題があります。
これらの問題の解決の一つに臨界に達する寸前に中性子を発生して連鎖反応をスタートさせるイニシエイターと呼ぶ装置があります。ポロニウム210を薄いアルミ箔で密封してその周囲をベリリウムで覆います。ベリリウムはアルフア粒子が当たると中性子を発生します。しかし普段はポロニウムのアルフア粒子はアルミ箔を透過することは出来ません。砲弾型ではウランを合併させた衝撃で、爆縮型では爆縮によってアルミ箔が破れて中性子が発生するという仕掛けです。
ポロニウムが核兵器に使用される重要な物質で、これを手に入れることが通常出来ないので、背景にはある大きな組織が関与していると思われます。
さらに奇怪なことはすし屋やいろいろな場所で検出されたと言う報道です。恐らく犯人はミリグラム単位の微量を所有していたであろうと思えるのになぜだろうか?この報道が正しいとすると、ポロニウムが昇華性の金属であることから、密封容器を開いた場所で昇華したポロニウムが検出されたのではないか。これは私の推測です。
主題からそれますが、ひとつ付け加えると核爆弾にも「賞味期限」があって絶えず一部更新しなければならないのです。半減期12年のトリチュウムもそうですが、半減期138,4日のポロニウムはより頻繁に更新しなければなりません。そのためプルトニウム球は半分に分離できるように作られ、その中心の空間にポロニウムやベリリウムが配置されていると思われます。
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